日時:2004年8月7日〜17日
山域:ヴァリス群アルプス
山名:ブライトホルン、リッヘルホルン、マッターホルン
メンバー:久池井 
形態:岩、ハイク

今回、単独にて渡欧してガイドとともにマッターホルンに登頂してきた。これは、その簡単な報告である。はじめに、出発までの動きを簡単に書こう。なお、事前の資料として昨年夏の新海さんのマッターホルン登頂報告書ならびにインターネットを参考にしたのは言うまでない。まず、登山の企画・ガイドの手配を専門にする幾つかの旅行代理店に見積もりをお願いしたのは、5月のGW明けである。このときになるまで、夏休みがいつとれるかわからなかったためである。ちなみに、旅行代理店には、上記の他に航空券、ホテルの手配等すべてを任せた(各社、取り扱う航空券が違うせいか同日程にも関わらず見積金額は50万強?70万弱と千差万別であった!)。次に、主なトレーニングだが、GWまでは会の山行に積極的に参加するくらいであり、平日は特に何もせず。6月に入ってからは岩をメインに活動して、7月には富士山の10合目で一泊した。一方で、自転車でのロングツーリングや8耐レースに参加するなどスピードを意識した持久力トレも行った。また、直前に今年のヨーロッパは雪が多いと聞いていたので、古賀志でアイゼントレも行った(結果的には、これは役に立った!)。とは言っても、やはり平日は何もせず終始、週末だけのトレーニングで出発することに。

7日:成田を朝、出発。航空会社は大韓航空。機内食は、ビビンバ!うまい。夕方(現地時間)、チューリッヒ着。ここで一泊。

8日:電車でツェルマットまで移動。途中、世界遺産でもあるベルンで下車して観光をする。スイスは本当に風景がきれいだ。どこからともなく「世界の車窓から」のテーマソングが流れてくる。夕方、ホテルにチェックイン。その後、旅行代理店の現地駐在スタッフと打ち合わせ。先週末に雪が降り、今年はやはり雪が多いとのこと。ちょっとへこむ。

9日:ここで補足説明をすると、マッターホルンをガイド登山する場合、あらかじめ技術チェックテストがガイドにより行われ、OKをもらわなければならない。今日はその技術チェックテスト。場所はブライトホルン(トラバースルート)。朝6時50分にリフト乗り場にてガイドと会う。参加者は俺の他にスイス人のピーター。挨拶もそこそこに、早速乗り込み終着駅のクライン・マッターホルンへ。駅から出るとそこはもう白銀の世界。ガスもでて視界は悪い。すぐさま、コンテで出発。歩くスピードは渓嶺での山行と同じくらいか!?ただし、休憩はとらない。でも、同行したピーターがどうもバテ気味でガイドに何やら言っている度に、水や行動食をつまむことができた。サンキュー、ピーター! ただ、彼の名誉のため言っておくが、本来なら12時に山頂に着くそうだが、我々のパーティは11時前には着いて、12時過ぎには終着駅のコーヒーショップで暖をとっていたのだ(ここでは、ピーターにコーヒーをおごってもらう。サンキュー、ピーター!!)。おかげで、チェックテストは無事に合格。その後、夕方には再び駐在事務所へ。本来なら明日にはヘルンリ小屋に入るはずだが、明後日の天気は良くないからと延期することに。

10日:代替案として、前日のガイドとは別のガイドと登山鉄道に乗り、湖面に写る逆さマッターホルンで有名な湖リッフェルゼーのすぐそばにある岩山(リッヘルホルン)でIV+ルート(6ピッチ)の岩登りへ。ここは、背中にモンテローザ、リスカムおよび昨日登ったブライトホルン、下には雄大な氷河を従え、横を向くとマッターホルン!と贅沢な景色の中にあり、この景色をみるためにクライミングを俺はしてるんだぁと実感する。ちなみに、ガイドは俺にビレイをイタリアン・ヒッチでやらせてましたね。午後は、登山鉄道の終着駅であるゴルナーグラートへ。ここで、飯を食べた後は、ツェルマットのホテルまで歩いて帰る。途中、カウベルを付けた羊の群に遭遇して、ハイジの気分に浸る。

11日:予報通り、天気は良くない。ホテルのケーブルテレビから見るクライン・マッターホルンは真っ白で何も見えない! 雪が溶けないままだと厳しくなるなぁと不安になる。午前中は、ホテルで休養して午後はスネガへ。ちょっとハイキングをするが、肝心のマッターホルンはご機嫌斜めらしく、2時間ほどねばるがその全容は見せてはくれなかった。夕方、またまた駐在スタッフと打ち合わせ。予報ではどうも明日は曇りで雪はとけそうにないが、週末には天気は回復するそうな。しかしながら、俺は14日にはこの町を発たなければならず、明日には小屋に入らなければならない。いっそ、技術的には易しいとされるモンテローザに変更するかと、考えもしたが、昨夜に読んだ小西正継著「グランドジョラス北壁」を思い出し、明日は晴れて欲しいとはもう願うのはやめ、どんな天候だろうとやれるとこまでやってみようと決意し、小屋へ行くことに決める。やる気バリバリ!

12日:シュヴァルツゼーから小屋までゆっくり歩いて2時間。午後3時30分に小屋に着く。チェックインすると部屋とベッドの番号が書かれた赤い紙を渡される。部屋には俺を含め5人しかいない。食堂も30人くらいか。やはり、週末に照準を合わせているようだ。窓に目をやると雨がふっており、さすがに気分は落ち込む。おいしい夕食後、ガイドのウグラリックとご対面。部屋で実際にハーネス、アイゼン、行動食をチェックする。このとき、ピッケルも持って行けと言う。今までの調べた資料では、ほとんどの人がガイドにピッケルはいらないと言われたのに…。でも、持ってきて良かったと胸を撫で下ろす。明日の出発時間を聞いて、ガイドとの会話は8時30分にて終了。ベッドの数は20あるのに部屋には5人しかいないので、隣の毛布も使って眠る。外は、まだ雨が降っている。やる気バリ…くらい(笑)。

13日:朝3時に目が覚める。外を見れば、満点の星空!!これには、神様、仏様に感謝する。本来なら、混んでいるはずのトイレもスムーズに入れた。朝食は、パンにチーズ、それに紅茶かコーヒー。やっぱり、紅茶でしょう!と思い、ティーパッグをとったら、なんとローズヒップティー…不味い。ちょっとへこむ。気を取り直し、外に出て4時20分にガイドとコンテをしたら出発。5番手くらいのスタートだが、取り付きまではほとんどジョギングの早さ、それからもスピードは衰えず、いつの間にか2番手に(一番手はすーっと先に行っていたので、実質集団のトップに)。もちろん、だからといってスピードは落とさず、ガンガン登りみるみる他のグループと差を付ける。ちょっとでも遅いとガイドは「hurry、hurry」と言って、ロープを引っ張る。さすがに起きてすぐのこのスピード吐き気を催したが、ソルベイ小屋までの我慢と思い頑張った(事前の下調べでは、ソルベイ小屋までは混雑を避けるためスピードが速く、そこまでの辛抱だそうな)。しかしながら、ソルベイ小屋の手前でアイゼンを履き、行動が少し鈍るものの、相変わらず、いっぱいいっぱいで登る。小屋に着いたのは6時40分。あんなに早いと感じていたのに2時間以上もかかったなんて。ちょっとショック。資料では、ソルベイ小屋まで3時間がリミットと書かれている。これから、アイゼンでの登攀を考えると従来よりも時間がかかると予想される。この先「休憩させてくれ」とガイドに言うものなら、この挑戦の終わりを意味するものと思い、必死でガイドに付いていくぞ!と心に決める。やる気バリバリバリ!!! ここから先は、固定ロープが頻繁にでてくるようになるが、凍っていて手はすべるし、アイゼンなので足の置き場が慎重になる。特に、最後の頂上部の岩場は、急峻でかなりこわかった。緊張で喉が渇くもせっかく持ってきたハイドレーションシステムの飲料パックが、寒さのためチューブ内の水が凍って使い物にならず。しかたないので、雪をすくって口に含む。さすがにガイドは「carefully、carefully」と言うが、続けて「hurry、hurry」とも言ってくる…。これを過ぎると、あとは頂上を目指し空に向かって歩くだけなのだが、かなりの高度感と滑落したら大事故になるとの思いでかなり緊張する。しかも、この時の雪がザラメ状で、アイゼンがあまりきかないので、ピッケルを使い何度も何度も雪面をキックして足下を見て登る。ガイドのお尻にヘルメットをぶつけ、ふと見上げるといつの間にか聖者の像があり、頂上へ着いたことを知る。ちょうど、ヘルンリ小屋からここまで4時間かかったようだ。ここで、ガイドと握手をして、お互い喜び合う。感激!ちょい向こうのイタリア側山頂には十字架が見えたが、鋭いナイフエッジなので、行かずじまい。その代わり、20分ほど休憩して、しばし景色に心を奪われる。イタリア側に見えたちっちゃいおもちゃのような家々が見えたのがとても印象的でした。8時40分過ぎに下山開始。下山は先頭に立ち、猿回しの猿のようにガイドからの怒鳴り声に従ってあちこちと動く。かなり情けないが、これもガイド登山の宿命…。下山は緊張の糸が解けたせいか、はたまた、疲れが出たせいか、動きが鈍くなった。にもかかわらず、しきりにガイドは「Don't stop!move、move」と叫ぶ。登りでは難しいと思わないII?III級ほどの岩もクライムダウンとなると慎重になる。さすがのガイドも「Super concentration!」と言うが、決して「slowly」とは言わないのが恨めしい…。行きと同じくらいの時間をかけて、12時過ぎにヘルンリ小屋へ。ここで、ガイドと抱き合い、登頂成功と無事の下山を祝う。小屋のテラスでは、観光客が拍手をしてくれてちょっとはずかしいが、すごくうれしかった。ガイドに登頂証明書を書いてもらい、しばし談笑して何度もお礼を言った。明日には帰国しなくてはならず、今日までにスーツケースを駅に預けたかったので(スイスでは、荷物だけ先に目的地まで運んでくれるシステムがあるのだ)、ガイドと固い握手をして後ろ髪引かれる思いで小屋を発った。途中、たくさんの登山客に会う。皆、明日のアタックを目指しているとのこと。日本人には、お祝いの言葉をもらい、ちょっと偉そうに岩の状態を教えてあげる。はは…、まだまだ小物だなと反省。夕方、無事にスーツケースをチューリッヒ空港駅に送りつける

14日:快晴。出発時間は12時10分。それまで、スネガにて最後のマッターホルンの雄姿にうっとりする。その後、まっすぐ空港へ。

15日:途中、乗換のためソウルの仁川空港によって成田へ。今回は、何事もなく無事に税関をパスする。