会心のチンネと甘く見ていた八ッ峰

期日:2005年8月7日(土)〜11日(木)
山域・山名:北アルプス・剱
ルート:チンネ左稜線&八ッ峰下半部
形態:岩登り
目的:チンネ最終決着
メンバー:谷嶋・石賀(報告)

去年、念願のチンネ左稜線を制覇した渓嶺会。今年も誰か行かないかなぁとメンバーを募ると、去年不完全燃焼に終わった谷嶋君が参加。雨で退散の2年前に比べればレベルUPしたつもりのワタクシ。「行くならスタカットで…」なんて2週間も前から頭は連休モード。今年も現地滞在3日と日程に余裕を持って挑むことにした。また会社では同じ課(現実には雲の上の存在)の常吉さんに応接室に呼ばれ「ぎくっ」、そこで「本田山岳部(薮内さん・前田さん・常吉さん)も同じ日程でチンネ・八ッ峰に行くよ!」とお聞きする。…そりゃぁ頑張らなくっちゃ!負けちゃおれん?

8月7日(日) 晴→雷雨 :入山
07:30 扇沢発 〜 09:10 室堂 09:30 → 12:00 別山乗越 12:25 → 13:50 長治郎雪渓出合 14:00 → 16:05 熊ノ岩着
扇沢はいつも通り始発6時半と思いきや、今日は7時半。少々気落ちして長蛇のチケット売り場に行くと、前田さんが先頭に居るではないか。5時から並んでいたという。恐縮しまくりで我々のチケットも買っていただく。ケーブルカーのりばでザックを計量。ワタクシ25キロ。谷嶋君は19キロ。谷嶋君は軽量化に徹底していた。「どうせ重荷は熊ノ岩まで」なんてタカをくくっていたが、室堂の階段でさえ既に息絶え絶え。別山乗越への上りはかなりバテバテ。やっとこさ12時に別山乗越に到着。谷嶋君は30分も待たされたようだ。悔しい?が、荷物を少し持ってもらう。剣沢の雪渓に入りアイゼンを装着して10分下ると、谷嶋君がアックスを置き忘れたと引き返す。これで余裕が出来たと優雅に下降。長次郎雪渓との出合に着いてもまだ姿が見えず、熊ノ岩目指してタラタラ登り始める。すると5分程か?ふと振り返ると谷嶋君がモーレツに登ってきて追いつかれる。余裕コキ過ぎであった。長次郎雪渓は途中大きく切れており、そこは左側の岩場を100m近く登って迂回する。再び雪渓になり、徐々に傾斜がきつくなるに従い、ペースが極端に落ちる。3時過ぎには雷鳴が響き、小雨が降り始めた。そして4時、熊ノ岩に到着。テント設営と同時に豪雨になった。

8月8日(月) 曇→快晴 : チンネ左稜線
04:05 熊ノ岩発→ 05:40 左稜線取付着→06:20 1P開始 → 09:45 T5 10:25 → 12:30 チンネ頂上 13:10 → 14:25 熊ノ岩着
3時起床。空は星がキラキラ…ヨッシャー!4時過ぎ出発。右俣の上部には30分前に出発した本田山岳部の灯りが見える。朝は谷嶋君も元気である。ペースがよく、この調子だと彼らに追いつけるかも?…そんな甘くはなかった。もう見間違えることはないだろう取付に着くと、本田山岳部は既に準備完了していた。またその前に1パーティーおり、登り始めたところであった。本田山岳部は薮内さんがリードでスタート!ルート図では1P:15m3級、2P:40m4級…ということで、易しいスタートをワタクシから行くことに。これがそもそも勘違いであった。
1P、いきなり「これが3級?」と感じたまだ乾ききっていない狭い凹角を、ハーケンを探しながらヒヤヒヤ登る。15m直登後、左にトラバースし、少々テラス状になっている最初のビレイ点で終了する。見上げれば先行する常吉さんのヘルメットは見えるが、その間のフェースにはハーケン一つ見あたらず、「どこがルート?」初っ端からいっぱい状態。「1Pがこれなら、この先どのくらい難しいのか?」ここがルート図の2P:4級と判ったのは2日後であった。2P、谷嶋君が、ビレイ点からはブラインドになっている左側の凹角っぽいフェースをリード。40m、奇しくもルート図と同じである。自分の番になり、緊張して行くとあらら「快適な4級」であった。3P、下部が草付きの大きなS字のルート。スリングを3本介してメインロープを掛けたり工夫し、ピナクルの懐に着く。すると裏に居た薮内さんとバッタリ!挨拶はこれが初めて!いきなり薮内さん「お〜これは石賀君。なぜ本田山岳部に入らない?」→「あの〜、その〜」
4P〜6P、一見難しそうなフェースを登り、易しいリッジを歩き、また一見難しそうな易しいフェースを登る。7P、易しいが脆いリッジ状の凹角を、ハーケンが見当たらず少々ランナウトしながら登る。25m上り、左手を縦長の岩に掛けた瞬間、その岩がボロッと落ちる。縦80横40厚さ10cm程度か、即行膝で岩を支えたが、小さな岩を数個落してしまう。「ラーック!」ビレイしている谷嶋君もこの時ばかりは飛んできた岩に体が硬直したらしい。「わりぃ〜わりぃ〜」縦長の岩はその場に置いたが、他の方が触ることなく、誰も居ない雨天時や冬に落ちることを祈る。この後ルート図ではピナクルをトラバースするように載っているが、先行する本田山岳部はピナクルを直登。去年渓嶺はピナクルを右からトラバースしたとのことだが、今回は彼らに続いて3ピッチに分けて直登し、T5手前に到着する。
そこには二人組がもう1パーティー出現しており、時間差は若干あるものの、9人の大所帯になっていた。さぁ核心である。最初に取付いたのはなんと本田山岳部、薮内さんであった。さらに先にいたパーティーが譲ったらしい。だがその後、無視できない事態が起きる。ここでは当事者ではないので詳細は割愛する。(詳細は常吉さんのHP内の記録を参照)何はともあれ我々が登るには40分待った。
11P目(ルート図は9Pか)。いよいよ核心へのトライである。リードする谷嶋君の行動一手一手を観察し、頭に叩き込む。2度目の彼はムーブもすんなり。谷嶋君がリード中、1時間半以上もあとに取付いたはずの後続の日大生が追いつく。さて、ワタクシの番。ドキドキ・ワクワクしながらT5を越え…とその瞬間、雨が降ってきた。手に直接かかる雨にドギマギ、心臓バクバク!このまま強く降られたら…後続が居たのと早く抜けたい一心で、A0でそそくさ越える。今思えば悔やまれるピッチであった。ビレイ点に辿り着くと雨は止んだ。
核心のあとは、常に先行パーティーに詰まりながらも、難しく見えて楽しく登れるリッジが4ピッチ続く。途中、先行するパーティーの一人が小さいコルでキジ撃ちをし、鼻をつままずには通れないハプニングや、後から来た日大生を我々二人とも写真に収めながら、優雅な登攀を繰り返す。そして最後のリードをワタクシに譲っていただき、チンネの頭へ到着。12時半、ガッチリ握手!攻略開始から約6時間。実質5時間弱か。ペースもまずまずで大満足の登攀であった。最後に'あの'ピナクルの上に立つ。「ここに立ってこそ完全制覇」と一人ずつ記念撮影をした。
帰りの長次郎右俣の下りは、「こんな所を上って来たのか」と驚愕!朝は暗かった影響もあるが目を疑うほどの傾斜であった。上部は石橋を叩くように慎重に、下部は走って、14時半テントに帰る。なお、今日もこの後夕立が来た。

8月9日(火) 晴時々曇:八ッ峰下半部
04:20 熊ノ岩発 → 04:45 どのルンゼか選択 06:20 → 09:20 1・2のコル? → 12:05 5峰頂上 12:55→ 13:45 5・6のコル 13:55 → 14:10 熊ノ岩着
3時起床。今日も本田山岳部は先に行動。我々はまたも30分後に出発。何かと彼らは速めの行動で、我々は常に彼らの後を歩いている。イカンと思いつつ、1・2のコルへのルートを迷うことなく行くには先に歩いていただく方が最良の選択。その行動を注視しながら下りる。本田山岳部は3つある沢筋の真ん中を偵察していたが、そこは登らず雪渓を下っていった。我々が雪渓の切れ間の横の岩場を通過し、上の沢筋に来たときには、源次郎尾根側に隠れて見えなくなってしまった。上の沢筋の右岸にアルペンガイドに載っていた写真と同じ石室を発見。上の沢筋に間違いない。また一旦は下に消えた本田山岳部一行が雪渓を登ってきた。「ほ〜ら」でも谷嶋君は「違う」を連発!持ってきたチャレンジ・アルパインのルート図を見て、「ここは2・3峰のコルに抜ける沢筋だ」と谷嶋君主張!見れば「確かにぃ…」。最終判断として雪渓を上ってくる本田山岳部の方々の見解を聞こうと待っていたら、3人のはずが4人に…「あれ〜?いつの間にか、すり替わってる」彼らはドコに行ったかもう判らず。なんだかんだ1時間以上に渡って3つの沢筋を全て偵察し、結論は真ん中の沢筋を選択。この一件は予習不足の何物でもなかった。…去年のGWの二の舞か?
沢筋といっても雪はなく、予想外に登山靴では到底登れるレベルではなく、左の急峻な樹林帯から高巻きして入る。しかし、ちょっとどころか1時間かかってやっと樹林帯を抜け、その先もドコまで行っても足場は悪し。3時間の格闘の末やっと稜線に出る。そこは1峰直下。あまりの近さに往復1時間は掛かりすぎる故、登ったルートは違うと感じたが、稜線に出たらからには今日はもうどーでもよかった。
その後は比較的快調に登る。大まかには1・2級レベルの岩場を5〜10分登ってピークに立ち、15〜30分費やして懸垂で下り、また次のピークに向う。2峰・3峰・4峰…続けて5峰・6峰…「あれあれ?」まともに数えないほうがイイようだ。懸垂もロープ1本で4箇所行い、何度もルート図を見ながら12時に5峰に到着。二人とも既に上半部への意欲は消滅していた。ここで長い休憩をとったあと、5・6のコルへ向って懸垂下降開始。ここだけロープを2本使う。1本目45m、2本目はギリギリ50m。谷嶋君が先頭で下りたが、最後は足が着く前にロープがなくなってしまうのではと焦ったらしい。「今日はこれで勘弁してやるか」…バイ谷嶋談。コルからテン場までは近く10分。熊ノ岩はなんてスバラシイんだ!
到着するや、本田山岳部がお出迎え。薮内さんが冷えた貴重なワインを差し出してくれた。勢い余って水のように飲ませて頂く。空きっ腹に染み渡り…美味かった!薮内さんありがとうございます。すると我らを見ていたお隣のテントの2人が日本酒と肴を持って乱入!日本酒の持ち主は魚津山岳会の浜森さん。その後もどんどん酒を注ぎ足していただき、感謝!1時間後には平衡感覚は完全に麻痺してしまっていた。

8月10日(水)朝から雷雨:一日停滞
真夜中1時前に目が覚める。谷嶋君が寒そうにいるので熱い紅茶を一杯。すると雨が降り始めてきた。「とうとう来たか…」。3時起床、雨の音がするため1時間様子を見ようと寝て待つ。4時、さらに1時間様子を見ようと寝て待つ。5時、こりゃあ駄目だねぇ。6時過ぎ…「帰るか?」。しかし想定の範囲♀O?の強雨に1日停滞を決定した。10時、突然ゴロンゴロンと大きな音がした。外を見ると右俣で土砂崩れ。もし今、雪渓を下りていたら無傷ではすまなかったろう。夕方黒部別山方面に陽が射し、やがて八ッ峰下半部にも。魚津岳友会の方々と一緒に外で紅茶を飲み、やっと冗談もでてきた。「これからCフェースにでも行く?」→「誰が?」

8月11日(木)晴:下山
今日も3時起床!一日待った甲斐あって気持ちのヨイ朝であった。長治郎雪渓を下っていると、チンネを途中から一緒に登った日大軍団に会う。彼らは真砂沢をベースに、あと10日は居るらしい。その後小屋を通過する度、お腹にご機嫌をとらせながら帰路につく。なお、室堂手前で稲葉夫妻と植木さんに遭遇。彼らもチンネ。好天に恵まれることを祈っていた…。帰りも計量〜21キロ。これが、ワタクシの限界か?

そして…唾をつけてしまった所は、また行かなきゃ気が落ち着かない。今度は八ッ峰か!