日時:2005年7月23日〜26日
山域:北アルプス 穂高連峰
山名:穂高岳
メンバー:北村、谷嶋
ルート名:屏風岩 東壁 雲稜ルート
形態:岩
報告:谷嶋

 屏風岩。日本を代表する岩壁のひとつである。が、まだ行ったことはない。1年くらい前から、北村さんと屏風に行こう、という話はしていた。私が休みの取れる7月末に計画を立て、初めて入るエリアであることと、天候も考えて手堅い日程を組んだ。

23日 曇り
 今日はアプローチのみ。松本から上高地を結ぶ国道158号が土砂崩れで通行止め。臨時に出ている乗鞍観光センター前からのバスに乗る。1時間ほどで上高地へ。上高地からサボりサボり横尾へ。横尾には、クライマーらしき人は他に1パーティのみ。ちょっと休んで明日の渡渉地点の確認のためにウロウロする。渡渉点は横尾から15分ほど歩いた開けた川原である。対岸に、白い石屑がちょろっと見えるのが1ルンゼの押し出しである。横尾に戻り、生ビールを飲んで気持ちよく眠りに就く。
24日 曇り一時雨
 朝4時半起き。5時半出発。膝までの渡渉は猛烈に冷たく、もう2度と渡りたくないと思ったが、実はこのあと3度も渡ることになる。数十分1ルンゼを詰めて行くと、T4尾根の取り付きである。ルンゼには雪渓が残り、取り付きは肌寒いほどだ。ヤジキタパーティのお約束(迷走)があった後、T4尾根取り付きは8時過ぎとなる。T4尾根はアプローチなのだが、厳しい。1ピッチ目IV級、2ピッチ目はV−であるが、かなり甘く考えていたため、その難しさに面食らって時間が掛かった。T4に着いたのは10時頃。
1P V リード北村
 凹角を登り小ハングを2回越える感じ。2回目のハング出口は狭っ苦しい動きになり、結構大変だった。ハングを出てすぐの終了点でピッチを切った。
2P V+ リード谷嶋
 右にトラバースし、体が挟まるピナクルを越える。この後の垂壁が細かい!とてもフリーでこなせるようには思えず、数歩あぶみに乗って上がる。この後もやや細かい感じでピナクルまで右にトラバースし、左に折り返して扇岩テラスへ。
3P III A1 リード北村
 ここはほとんどあぶみで登るピッチ。北村さんがリードしていると雨が降ってきた。昨年の甲斐駒を思い出す。雨は徐々に強くなり、右のルンゼ状は滝のように水が流れている。北村さんは雨の中終了点までたどり着いたが、この後にあるV級+のスラブは濡れていては無理と考え、私が下降を提案。連続懸垂で取り付きへ降りる。
 帰りの渡渉もしびれる様に冷たい。雨は下山すると上がり、横尾小屋で生ビールを飲んでうさを晴らす。明日の東稜の予定は変更、何としても雲稜の完登を誓い、3時に目覚ましを仕掛けて就寝。

25日 曇りのち雨
 天気予報では天気は下り坂だが、完登を果たすべく今日も雲稜ルートへ。昨日より1時間早く出発し、冷たさが脳に来る渡渉もさっさとこなして1.5時間早くT4尾根に取り付く。T4尾根もヌンチャクをつかみまくり、T4到着は8時頃。昨日より2時間早い。ここから3ピッチ目まで、昨日と同じ順序で登る。
3P 昨日私が登らなかったピッチ。あぶみの架け替え。ボルトは古いがとにかく近い。が、人工に慣れていないのでもたもた登る。振り返ると高度感が出てきて、いかにも屏風を登っている実感が湧く。
4P IV+ A1 リード谷嶋
 終了点の上から垂れているスリングで数手の人工。その後フリーで右にトラバース。易しいのだが、高度感があり、身をかがめて歩く変な動きなのでちょっと怖い。10mくらい行った終了点で切る。
5P IV+ リード北村
 東壁ルンゼを右に渡り、フェースを登る。このピッチだけはあんまり覚えていない。
6P V+ リード谷嶋
 実はおまけ程度で期待していなかったのだが、個人的に一番楽しかったピッチ。左上して小さいハングをかわし、凹状のすっきりしたスラブに入る。傾斜はそんなになく、地上だったら大したことはないが、ここは屏風の上部。はるか下の森から300mはあるロケーションだ。ゆるやかにムーブをつなぎながら、白く延びる明るいスラブをたどる。本当に気持ち良い。クライミングをやっていて良かったと思った。
7P IV リード北村
 このピッチはブッシュ交じりの階段状になり、前のピッチほど快適ではなかった。30mほどで終了。終了点は14時過ぎ。ここから懸垂で同ルートを下降する。
 10ピッチくらい懸垂下降し、T4の取り付きへ着くと雨となった。クライミング中、天気がもって助かった。4度目の渡渉はすでに川底のスタンスを覚えており、難なく突破。暗くなる直前に横尾に到着し、生ビールで完登の祝杯を挙げる。

26日 雨
 昨夜から雨。この日の夜には台風が関東へ上陸した。ぐちゃぐちゃの運動靴で上高地までの11kmを歩く。おかげで、目標のルートを登った割には、敗退気分になる。
感想:
 初めて行ったせいもあると思うが、T4が思った以上に難しく、雲稜ルートに取り付くまでが結構しんどい。ルートも全体に気の抜けないピッチが続き、こういうクライミングに慣れていないと精神的に疲れると思われる。クラシックなルートと呼ばれるが、由緒ある、第1級の、流行に左右されない、という本来の意味でのclassicなルートだと思った。今渓嶺でこのルートをきっちり登れる人は少ないかも。ただし、渡渉、凹角/フェース/スラブと変化する壁、あぶみ、高度感の中のクライミング、トラバース等内容は盛りだくさん。各ピッチが印象的でとっても素晴らしいので、是非、皆さんも頑張って、このルートを良いスタイルで登ってください。







屏風に上手に登れずA0

報告:北村
屏風岩・雲稜ルート
 流れ的にはT4尾根がアプローチになるものの、これはこれで結構手の抜けないルートだ。ボロいフィックスを伝って取り付いたあと、スラブから右のクラックに入っていく際、次の支点を探すのにA0してしまう。その直後も、体を上げるのに少し思い切りのいる箇所があった。完全にクラックに入ってからは支点・ムーブともに問題なし。T4尾根2P目は谷嶋君リード。セカンドで続くが、ここでも一箇所A0……。草付きを進み、最後のピッチをリードして、ようやく目当ての雲稜ルートに取り付く。
 1P目(北村)。最初はフリーでイイ感じだったが、小ハングを乗り越す際にやっぱりA0してしまう。結構長いピッチなので、フリーで通すにはおれにはちょっときつかった。セカンド谷嶋君はフリーで登ってきた。ちなみに雨で敗退後の翌日は、おれは時間短縮のためA1でハングを越えた。
 2P目(谷嶋)。谷嶋君は途中のピナクルのテラスからの数歩にアブミを使ったらしいが、セカンドのおれはそこでA1を始めてからずっとA1になってしまった。A1といっても結局フリーでつなぐことになるのだから、途中でアブミに乗るのをやめても大して変わらなかったはずだか、使い出したらとまらなくなってしまう……。
 3P目(北村)。A1。扇岩から登るこのピッチがよく写真で紹介されているので、イメージ的にはいかにも「雲稜ルート」という感じだったが、ここが一番易しかった。ボロい支点にはすでに危なげない3mmスリングがかかっていた。
 4P目(谷嶋)。すぐ上のバンドまでA1。その後、頭上から岩に押さえつけられつつ、腰の曲がった婆さんのように縮こまってトラバース。ここはどんなスゴ腕クライマーといえど、大体このよーな格好で通過していることだろう。
 5P目(北村)。ルンゼの中の草付き。
 6P目(谷嶋)。スラブ。谷嶋君はフリーで抜けたが、続く北村、スラブがニガテなためピトンの上に立ったりヌンチャクを掴んでしまったりと、だいぶA0してしまう。2人の登攀内容に最も大きな差が出てしまったピッチだった。
 7P目(北村)。難しくはなかったが、一部ロープを交差させてドラッグしてしまった。
 天気が悪くなることがわかっており、同ルート下降としていたので、これにて登攀終了。T4尾根取付まで下降したところでちょうど雨となった。
 今回は、4日間のうち中2日とも午後に天気が崩れたため、上には抜けずに同ルートを下降してしまった。屏風岩が初めてだったので、どんな形にせよとりあえずルートを登ることを優先したものの、本当ならやっぱり上に抜けたかったところだ。また、おれのリード時に時間がかかり、ルート図に4〜5時間とあるところを6時間かかっている。
 いつものごとく反省点は多いが、ルート自体はとても素晴らしかった。また、谷嶋君と一緒に登ったこともとても楽しかった。谷嶋君ありがとう。しかし、谷嶋君とこれからもいいルートに登るためには、おれはま〜だまだ練習する必要があることを実感。