GW明けの白馬主稜
天気に恵まれ、陽に焼けすぎ…気がつきゃ顔がアイタタタっ!


期日:2005年5月7日(土)〜8日(日)
山域・山名:北アルプス・白馬岳
ルート:白馬主稜
形態:雪稜登攀
目的:クラシックルートに初挑戦
メンバー:石賀 雅浩・新海 洋・阿久津 雄二
報告:石賀 雅浩

5月7日(土)
10:25 猿倉出発 → 12:10 白馬尻ちょい先の岩 12:30→ 12:35 主稜登攀開始 → 13:15 8峰まで1/3地点 13:25 → 13:30 直後の水場で小休 13:40 → 14:20 8峰まで2/3地点 14:30 → 15:208峰頂上 → その後…7峰偵察してテント設営、夜に流れ星を観察 → 21:30 就寝

5月8日(日)
03:30 起床 → 05:30 出発 → 06:30 7峰 06:40 → 07:25 4峰手前 07:35 → 08:25 3峰手前(渋滞休憩) 08:40 → 09:20 3峰直下 09:30 → 10:10 頂上直下 10:25 → 11:00 主稜登攀終了 → 11:30 白馬山荘〜祝杯! 11:55 → 13:55 猿倉着 → その後…白馬「小日向の湯」で入浴、長野市内「ステーキどん」でメシ

昨年末、密かに今年の目標として掲げた白馬主稜。晴天を条件に今年の雪山の締めくくりとして目指すことにした。(敗退したけど)オートルートから帰宅後の3日朝では、天気予報を見る限り7日の午後は日本全国雨模様。日本海には低気圧が二つも…、そして太平洋側は前線が通過する予定。年初から続いた週末の天気の悪さは最後の最後まで続くのか?それとは裏腹に今回のパートナーの新海君と阿久津さんはGWドコにも行けなかったのでやる気マンマンである。ところがである。新海君はおいらがメールで送った計画書を打ち出しておくのを忘れ、おいらの家のパソコンを見ながら装備内容を控えることに。まったく気合が足りん!で…何故にパソコン?…そう!おいらも実は忘れたのであった。その夜、阿久津さんからコピーを貰う!今回のリーダーなのにだらしないですね!阿久津さん、ありがとう!

前夜8時半、雨が降る中がッちゃん号を走らせ、二人を迎えに行く。どちらも奥様がお出迎え。「主人をよろしく」すかさず「いえいえ、お借りします」。自宅を出る際、「では行ってくるぞよ!」「くれぐれも気をつけてね!」そんな会話のない独りモンは実にさびシー!だが二人がGWに行けなかった分、今回実現したと思うと家庭を持つ身もキビシー!。なおこの雨の状況では明日の出発は午後になりそうで、猿倉に早く着いても仕方ないのだが、逆にこうも雨が強いと下道も面倒なので、高速道路を更埴まで利用して車を走らせることにする。途中、TV番組の「ハニカミ」をカーナビで見ていたら、ちょっとお気に入りの女性タレントがガラスを挟んでチュッ!その演出に気が気でないがっちゃん、ハンドル操作があたふたしまくり。スカスカの高速とはいえイケナイねぇ!長野経由で白馬に向かい、暗闇の中の猿倉に到着。山荘前の駐車場には車は1台。下の大駐車場には2台しか置いていない。まだ連休中の身であるため感覚がなかったが、GWは既に過ぎ去ってしまっていたことを実感する。
着いた直後に缶ビールを飲む。さて、車の中どうやって寝ようか?しばらくして阿久津さんが「オレ荷室で寝るよ!」えっ?バカな?…っと思う間もなく、ニコニコしながらザックの並んだ狭い後ろの空間に入ってしまった。大丈夫かな?…結構居心地は良いほうであるとのこと。ちょっとした新たな発見であった。2時前に就寝。外はシトシト雨が降っていた。

5月7日(土) 青空が見えるのを待って出発〜8峰まで
朝6時半に目が覚めてしまう。が、相変わらず外は雨、時折強し…なのでとりあえずまたスヤスヤ。新海君は阿久津さんの寝床が気になるようで場所交代。ザックの上は器用に寝れば気持ちいいものらしい。再び起きたのは3時間後の9時半であった。それでも外はまだシトシト降り続き、このまま今回は退散かと少々不安になる。携帯のネットからの天気予報は、午前中は雪&曇、午後から快晴。「えっ?ユキ?」ただただ、午後の回復を信じてじっと待つことにする。すると雨が止み、真上には突如青空が現れ「ほっ!」じっと待った甲斐があったと感激し、準備に取り掛かる。食糧・フライは新海君、ロープは阿久津さん、テントとポールはワタクシと分担。いつもながら阿久津さんの荷物はデカイ!ひょっとして何か隠しアイテムがあるのではないかと、ちと楽しみにして出発する。
猿倉荘の脇から雪の上を歩く。夏のジグザグ道は当然判らないので、適当に直登。しかし、バランス悪く些細ではあるが1mくらい滑り落ちてしまうこともあり、ノッケから手厳しかった。やっとのことで林道に出るや否や、新海君は躊躇せず右へ歩いて行く…「おいおい、そっちは帰るほうだよ!」2年前に来ているのにすっかり忘れているようである。しばらくは平地歩き、楽チンである。風は時折強く吹き、天気は完全回復とまではいっていなかった。白馬尻…らしき場?所に近づくと徐々ではあるが傾斜がつき、荷物の重さが気になり始める。雪渓を渡る前に一度休憩。その時、風に乗って小さな袋が飛んできた。阿久津さんがキャッチ。ヤッケを入れる袋のようだ。上に人が居るのか?しかし、再び歩き始めても人の姿はドコにも見当たらない。なおかつ白馬尻の小屋自体が完全に雪に埋まっているようで、明確な場所は判らずじまいで通過する。
今日は風が強い。主稜への取付直前で、大雪渓の真ん中にある岩を風よけにして2度目の休憩。そこで主稜を凝視し、取付ポイントを探る。圧倒される斜面を目の前にルート確認、上方の踏み跡は判るのだが下は雨でかき消されていた。ここで早くもアイゼンを装着し、慎重に行動開始する。主稜のつけ根に着いて見上げると、傾斜はかなりきつい。「ロープ出す?」「まだ要らないよ!」ならばと突き刺す足が全て埋まるくらいの気持ちで、一歩一歩繰り出し登り始める。阿久津さんは荷物が大きい分、遅れ気味。中に何が入っているんだろう?20分ほどでGW中に多くの人が歩いたと思われるトレースに合流。今朝までの雨で跡は薄く失われつつあり、踏み込みは必要であるが、これからは道を外さずにすむと思うと安心する。もう一つの不安は、途中でザックを下ろすだけの傾斜の緩い場所がどこにもなく、休憩ポイントが気になる。しかしこちらもすぐに解決。岩が露出している所は必ず雪の間に狭いが窪んだ空間があり、そこを利用して腰を下ろした。
主稜を登り始めて1回目の休憩の後は、岩を左からまく。すると天の恵みか?雪の切れ間より水が流れている。ポリタンを忘れたおいらはペットボトルに水を補給。同時に新海君はキジ撃ちに急峻な茂みの中へ。これだけはいいキャラだと言わせてもらおう。阿久津さんは「オレ遅いから」なんていいながら先に。ここからは阿久津さんが先頭で、おいらはその後ろについてゆっくり登る。空はいつしか雲ひとつない快晴に変わり、強烈な陽射しが雪面にも反射して目に突き刺さる。もうグラサンなしでは歩けないくらいになっていた。
2度目の休憩も露出した岩の下。いつまで経っても変わらぬ急な傾斜に、荷の重さも加わって思うようにペースが上がらない。まだ主稜を登っているという実感も沸かず、苦しみとため息ばかりが目立つ序盤の登りであった。休憩の数分後に傾斜が緩やかになり、やっと気が楽になる。それも十数分の間だけでしたがね。そのまま尾根にあがると、目の前に小蓮華が現れる。ここからは左右に連なる尾根の左に進路をとる。といってもわずが数メートルで雪は途切れ、滑りやすい草付の崖が出現。左側にある木の枝にしがみついて登る。ザックの重さがここにきて強烈。ここをなんとか切り抜けると、今度は突如ナイフリッジぎみの稜線が出現。これはどこまで続くのやら。2〜30m程度の距離ではあるが、その先が見えぬ道は怖いものである。草付とナイフリッジを乗り越えたその奥に先に、幕営の跡のある平坦な場所が出現。ここが8峰らしい。
しばらく二人を待つ間、その先に見える急峻なピークまでのルートを確認する。雪が切れ、登りにくそうなガレ場が見える。またその先もしばらくは平坦な場所はなさそうに思えた。二人が到着し、今日の行動を確認!今日は出発が遅かった分みな疲れ気味で、ピーク越えも相当時間がかかりそうな予感がした。時は既に3時半。「時間切れかな?」本日はここまでとする。
テントは4人用。3人で使うには随分余裕である。幕営跡もなかなか広く、土台を少し広げるだけでしっかりしたテントを建てることができる。ただ風が強いため、四隅の張り綱は軟らかくなった雪面のよりも下に差込んだピッケルに巻きつけ、ピッケルの上に雪を乗せて固め、頑丈にする。これで完璧!稜線の途中に贅沢な宿が出現した瞬間であった。同時に太陽が主稜の裏に隠れてしまい、テントの中はすぐに冷え込んでしまう。ここで阿久津さん、秘密のアイテム披露!ペットボトルに入れたワインが出てきた。暖まるのう。ということで宴会開始。各自少ないツマミを出し合い、まったりとした時間を過ごす。夕飯は最近定番になりつつある乾燥野菜が入ったカレー。阿久津さんが持参したチーズを刻んでまぶして食べるとこれがまた美味い。フルーチェは重いのでやめた分寂しいかと思ったことなどドコかに消えてしまった。
夜も前線の通過後で、雲一つとないスッキリした展望!まずは北斗七星と北極星を発見!他は知らない…いつもここで思うが、いつも学習しないのう!しばらく上空をじっと眺めると、星がどんどん増えてイツの間にやら溢れんばかりに。またここは通り道なのか飛行機が多く、人工衛星も何個がゆっくり通過していた。そのうちみんな流れ星を探す。各々1個は見つけたが果たして願い事はしたのであろうか?…おいらは当然ナ〜イショ!もう一つが見たくて首が痛くなってもその後30分以上も上空を眺めていた。夜の北アルプスは寒さが厳しいにも関わらずであった。8時過ぎからはメールタイム!…折角下界とおさらばしているところなのに絶対おかしい!といってるおいらも同一行動。山の世の中も変わってしまった。寝る前に明日のための水を作り、最後に天体観測で冷えた体を温めるコーヒーを飲んで寝る。夜中は時折強い風が吹いていた。

5月8日(日) 7峰手前でいきなり追い抜かれ〜ながらも頂上制覇
3時半。携帯のアラームが鳴る。すると阿久津さんが「起きよう!」みんな張り切っているな。朝は坦々麺。今回は豚肉のそぼろと乾燥ねぎを添える。美味い。外を眺めれば上空は雲ひとつない快晴。火打と妙高の間から上がる御来光を見ながら紅茶を飲む。この上ない幸せなひとときである。振り返れば目指す稜線は黄金色に輝いて見える。感無量であった!昨日は予定の場所までいけなかった分、早い出発を目指して準備開始。ところがテントを片付ける際ハプニング!テントの四隅のロープをしっかり固定していたピッケルが固い雪の中から取り出せず、さあ大変!昨夜は緩んでいたため奥深く差し込んだことが仇となってしまった。まあ飛ばされるよりかはいいか!ってな具合で予定より30分遅れで出発する。この時点で白馬尻から登ってきたと思われる沢山のパーティーがすぐ下に見えていた。歩き始めてコブを一つ越えると傾斜が急にきつくなったので、安全に配慮してコンテで行くことに。しかしコンテは50mも歩かずにお終いとなる。7峰手前の雪が溶けてちぎれたガレ場は非常に登り辛そうなので、手堅くビレイに切り換えて登ることにする。ガレ場を10m程登るとその上の雪上は易しそうに見えたので、ここで木の枝に支点を作って二人を確保する。お次は新海君、ロープの途中を8の字結びで繋いで登る。そして阿久津さん、なぜか表情はニコニコ。みな簡単に登ってきてしまった。またこの間に、下からまず3人組のパーティーがコンテで登ってきて、10m左側のラインをそのままスタスタ行ってしまう。また、次の4人組パーティーは各自ソロでいとも簡単に…。でもうちらは自分たちのペースでと誰もが思っていたため焦りはなかった。なんせ荷物が重かったからである。
その後幾つかピークを越して安心して休める7峰に着くと、抜かれた7人が休憩していたので我々もそこで休憩をとる。先に行っても邪魔なだけである。3人組は主従関係がはっきりしていたので、ここで何気に「ガイドさんですか」と聞いてみたらセカンドの方が、「そうです。有名なガイドです。イエティの遠藤(晴行)さんです」と…後でネットを確認したらエベレストはもち、アコンカグアにも10回も登ったスゴい方であった…4人組にも一人ガイドが居たが、彼らはガイド登山とは関係なく仲間として来ていた。なお、3人組は3時、4人組は4時に白馬尻を出発したという。決してゴロ合わせではないそうです。
これより先は時折足がすくわれそうな気持ちに襲われながらも、アイゼンとピッケルを確実に打ち込んで狭い稜線上をそれぞれで登る。8峰〜7峰間は1時間かかったので、1峰1時間の単純計算で「頂上はまあ12時半頃には着くだろう」そんな軽いノリで、慎重に7人が先に跡をつけたルートをなぞって登る。しかしおいらだけは時折踏み込んだ足に荷重を掛けると沈む。「なぜ?」新海君が「それは荷物が重い為だよ」いいフォローだ。といって崩れてしまってはとんでもないことになるので、慎重にゆっくり登ることにする。時には稜線の幅が狭すぎて歩けず、雪庇側?に出来た踏み跡を冷や冷やしながら渡ったり、荷の重さに幾度となく立ち止まり、深呼吸したり。またこの頃は既に陽も高く上がり、汗も滴り落ちる状況に変わっていた。1時間も経たぬうちにテン場の跡のあるテラス風の場所に7人組が休んでいたので我々も当然休む。ここはどこだか聞いてみると目の前にある頂が4峰ですと。「おっ!半分か」グッと目の前が明るくなった。
ここで先頭が入れ替わり4人組が前に出る。4峰を越えてその先遠くを見ると、7峰手前と同じように雪がちぎれて登り辛そうな所で4人組が立ち止まり、ロープを出していた。「ほ〜う!」。到達した時には3人組が取組中で、ここで初めて渋滞休憩!「あせらずゆっくり登ってください」余裕である。15分程待った後、狭いながらもしっかりスノーバーを打ち込み、ロープの結び目をみんなでチェックする。新海君が先に登った3人組の様子を見て「途中で絶対スノーバーをセットして下さいよ!」「おう!わかったよう」いざ出発。気合が入りすぎたんもんかバイルを手首に掛けて岩場を登り始めてしまい、これが少々アホだった。くるくるまわり岩に引っかかるバイルが邪魔でうざったい。おまけに天気も良く岩も乾いていたのに、手袋をして取り付いたので、非常に登りづらい。一瞬次の手がなくなった時、「手袋外したら」とアドバイスが…いろいろ世話の焼けるトップである。素手に変えたらアラアラ、指が岩によく引っかかり、登りやすくなった。でもたかだか3mであったが、息は切れ切れ。その後の稜線も見た目より鋭く、途中スノーバーを打ち込むまでは生きた心地がしなかった。個人的には一番の正念場であった。その先稜線が左に曲がる場所で一旦ロープの長さを確認。すると「あと5m」「えっ!」さらに10m先に広い場所があったが、そこまで届きそうにない。仕方なく狭い曲がり角にバイルで支点を作り、ロープを上げる。すると5mどころか15mは余裕で残っていた。ありゃりゃ!でも失敗ではないので落ち込むことなくフォローの確保に取り掛かる。2番手は阿久津さん。上からでは岩場の通過は見えないが、タイブロックでたいした時間もかからず登ってきた。なかなかヤルもんだ。ここで確保している場所は自分だけしかスペースがなく(これは失態だっかも?)、10m先の安全地帯まで単独で行ってもらう。阿久津さん申し訳ない!お次の新海君も詰まることなくあっさり登り、そのまま10m先の安全地帯まで行く。そして最後においらを確保してもらい、全員危険地帯の通過を無事完了する。なお、阿久津さんと新海君との間に後続のパーティー数人が各自ソロであっさり通過。彼らの見解は「ここはトップが落ちれば確保しても無理さ!ならば道連れを作らない方がいい」だと。自分はそうは思わないけどねぇ。でもソロで通過できること自体、実力があるっていうことだ。
3峰は先に行った3番目のパーティーが選択したイカにも難しそうな直登は避け、右からまく。といってもこちらも傾斜はきつく雪も緩み始めていたので、ピッケルを可能な限りしっかり奥に差し込んで一歩一歩確実に登る。3峰の上に行っても3番目のパーティーの姿は見当たらず、相当苦心しているようだった。我々の後ろには2人組の4番目のパーティーが追いついてしまった。しかし道を譲る場所も余裕もなく、そのまま2峰まで連なって登り、ここで一時停止。頂上直下で7人組が取付ている様子をじっくり観察し、気分を落ち着かせる。3人組は左の岩から、4人組は右側から、1箇所しかない抜け口を目指して登っていた。いよいよ最後の雪壁への挑戦である。3人組の居る左の岩に支点が取れるのではとそこまで向う。途中まで行くとまだ残っている4人組の1人が「左の岩にハーケンがあるよ」と助言。「おお!それは好都合」3人組が既に去った後で、誰もおらずラッキーであった。ここならロープ一本で頂上まで到達できる距離である。3人ではちょっと手狭なスペースで、ロープもザックからの取出し方が下手くそでグッチャグチャ。この辺りがまだまだである。後続パーティーが直後に来てしまい渋滞になってしまったことは申し訳ないが、しばらくの間待ってもらう。
いざ挑戦!傾斜60度強とはいってもそれまでの道のりに比べて殆ど変わらず、踏み跡もしっかり残っているので登るには特に難しくはなかった。ラスト5mまではスタスタ。丁度いいところに平らなスペースがあったので、ここでスノーバーを差し込み、いよいよ頂上へ抜ける雪庇に突入する。ところが傾斜はなんと垂直!2〜3歩足を進めたら、踏み跡とはいえ間隔の広いこと広いこと。崩さない一つのテクニックなんだと認識したが足が上がらず、途中からダブルアックスに切り替えて突破する。トップでは落ちることは許されないと思うといつも以上に緊張が走る。そして…抜けた瞬間視界が一気に広がり、安堵と開放感が体を走り抜けた。2日に渡って苦心して登りつめた分、感激はいつも以上である。ザックをほっぽり、一瞬ではあるが爽快感に浸る。お次の阿久津さんはタイブロックで登る為、ロープを頂上に突き刺したピッケルから出したカラビナにインクノットで固定し、ピッケルを常時踏みつけて確保。阿久津さんは始めからダブルアックスで手堅く登ってきた。途中隣から登ってきた女性クライマーにルートを譲り、ちょい休憩。この女性は素手でダブルアックスを使い、瞬く間に雪庇を越えてしまう。小柄ながらパワー・スピード・テクニック全てにおいてレベルが高く、我々の比ではなかった。阿久津さんがスノーバーを回収して登攀を再開。おいらは手が空いた分カメラを向けるとタイミングよくニッコリ!これじゃあ真剣さが伝わりませ〜ん。難なく雪庇を切り抜けた後は、三国境側に出没した雷鳥を追いかけ、気が付いたらハイマツの中へと消えてしまった。やんちゃである。最後の新海君にはスタンディングアックスビレイに切り替えて確保。新海君はピッケル1本で登り、雪庇越えもなんなくクリアー。相変わらずセンスがいい奴である。11時ジャストに全員突破!初日をあわせ合計8時間半の格闘?の末の制覇であった。
頂上からはしばらくアイゼンを装着したまま下りるが、白馬山荘まで雪はなく歩き辛く、結局山荘の手前でアイゼンを脱ぐ。また山荘ではビールとコーラで乾杯!一口目のななんな〜んと美味かったことか。ビールは350mlで600円もしたけど、今はそれ以上の価値があった。遠くは穂高も見え、展望は申し分なし。意外に笠ヶ岳が美しく、長い間眺めていた。
大雪渓は白馬尻までの大半をシリセードで下る。山スキー連中のまだ大半が汗だくで登っている横をサーッと気持ちよく滑走。快感である。既に頂上に居たスキー連中にも殆ど抜かれることなく、白馬尻までなんと1時間ちょい、猿倉まで2時間ジャスト!信じられぬ異様なペースで下りてしまう。帰りに雪が溶けた道端には多くのフキノトウが咲いていた。昨日は気づかなかっただけに、改めて余裕のなさがうかがえた。

帰りは猿倉より一番近い「小日向の湯」で入浴。毎月8日は半額デーでラッキー!ここはシャワーのない露天風呂であるが、体の垢を取るには申し分なし。その後は腹いっぱい食べられそーなお店がなく、空腹地獄に遭いながら長野まで車を走らせ、やっと飯にありつく。自分以外の二人は、氷水の入ったコップを顔に当てて冷やす。2日間でも顔が腫れるくらい焼けてしまい、痛そうであった。えっおいら?会津朝日・立山で散々焼いたので特に症状はなし。もう地黒になってしまったかもしれないくらいである。翌日より出勤したが、周りは振り向けど声はあまり掛けてくれなかった。

白馬主稜は2年前に出発直前で中止になり、それ以来密かに想い描いていたルート。今回時期は遅かれどリードして踏破できたことにすごく自信がつきました。まだまだロープワークに不手際や小さな失敗はあり、一人前とは言い難いけれど、経験を積み重ねて、目指すは北鎌!…いつまで言い続けるのか?自分でも見物です。